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なぜ王子様はキスを拒んだか? 答:借金があった【アナと雪の女王感想】

アナと雪の女王 | ディズニー映画アナと雪の女王 | ディズニー映画
アナと雪の女王みてきました。と、感想書こうとブログ開いたら、年末の「47RONIN」以来なにも書いてませんでした。あ、あけましておめでとうございます。本年も宜しくお願いしいたします。

毎度映画感想をブログに書くときは、今どき効果あるか分からないけど、ネタバレ防止目的で1画面分程度の改行を入れるのですが、今回は前半ネタバレなしなので、改行なしで。表題の件は下の方にあります。

主題歌のLet it goがそこかしこでかかってるので、覚えておこうかなとYoutubeの公式動画を繰り返し見ていました。松たか子版もいいけど、歌ってて気持ちいいのは断然英語版


FROZEN - Let It Go Sing-along | Official Disney HD ...

夜の雪山を一人沈んで歩くエルサから始まり、自分の力を隠さず生きていこうという決意を歌っていくうちにあれよあれよと氷の建物ができあがり、ラストは氷のドレスに着替えて登る朝日をバルコニーで両手を広げて迎え、カメラぐっと引いて氷の城の全景でフィニッシュ。

いやーすばらしい。さすがディズニー。気分盛り上がってきたので本編も見ておくかと劇場へ。2D吹替版。

前座に白黒フィルムと3Dカラーを行き来するミッキーアクション。オリジンと最先端技術の夢の融合を狙ってるんでしょうか。こんな芸当ができるのはミッキーマウス保護法のおかげだよね! みんなもそう思うだろう? ハハッ!(裏声) という幻聴が聞こえてきましたが気のせいでしょう。

そういえば、手塚マンガも初期は枠線にぶら下がったり、ふっ飛ばされて枠線が折れたりしてたんですが、マンガ描写がリアルになるにつれ、あまりそういう演出はされなくなったみたいな話が「テヅカ・イズ・デッド」にありました。そう考えると、そもそも、マンガの枠線をメタに使いこなしたり、3Dと白黒を行き来する演出はディフォルメキャラクタでないとしっくりこないのかもしれません。

あと、話の筋が、でかい犬(ディズニー詳しくないので名前が出てこない)がミニー攫って、ミッキーが仲間と一緒に懲らしめるという、まあ童話、昔話に類型ある筋なんですが、ネットでよく見る、失言したDQNを追い込んでく風景とも重なり。ああ、戦争ってなくならないですねえとか嘆いてみたり。

で、本編。

エルサ役の吹替の松たか子が海外で評判という話をネットで見てたのですが、アナの吹替の子も芝居も歌も上手。高音の入りのひっくり返るコブシまわしが往年の松田聖子を彷彿とさせてとてもよいです。今どきこんな歌い方する若い子いるんだなあ。どこから連れてきたのだろうとスタッフロール見たら、神田沙也加。神田…SAYAKA…。わお!松田聖子の娘だ!

以前、ボカロ曲カバーしたり、ボカロになりたい(自分の声をボーカロイドにしてほしい)みたいなのを見て迷走してるなあと思ってましたが、いい役貰えたようで一安心です。(なぜか親戚のおばさん目線)

さて、そろそろネタバレ入れていきますね。一回しか見てないので妄想を膨らませている間に、事実と大幅にかけ離れている気もしますが、気にせずいきます。



ストーリーについては、童話界最強魔法「王子様のキス」を否定したことについて、色々話題になってました

この作品のジェンダー観については、大野左紀子先生のレビューがかなり踏み込んでまとめてありまして、ぱっと見、自立した女性の礼賛に見えて、その実

男への幻想を捨てよ。しかし自己解放はほどほどにせよ。国や家族という共同体を大切にし、各々の社会的役割を遂行せよ」というのが、(作り手が意識しているかどうかは別にして)この作品の発している率直にして辛口なメッセージである。

『アナと雪の女王』にかかったジェンダー観の砂糖衣 - Ohnoblog 2

というのは、そうだなあと思ったし、世界中のマス向けに作られるディズニー作品の方向性としてはとてもバランスが良いと思いました。

全体通して見ると、物語の流れとして「王子様のキス」を否定したい意図はわかるけど、個人的には、あれ、ハンス王子、そこで断っちゃうの? おいおい、そこはぶちゅっといっちゃえよ。という第一印象がありまして、そこちょっと妄想広げて書いておこうかなと。

「三男が世界を変える」みたいな言い方がありまして、名家であれば長男は家督を継ぐし、次男くらいも色々忙しい。名家で育った教養と人脈がある上自由な三男が世界を変えるような可能性を持っている。という風の話です。が、逆に言えば、世界を変えるようなことをしないと生き残れなくて、居場所のない本家で飼い殺されるか、出奔して野垂れ死ぬのが大半。

さて、ハンスは王子と言えど、13人兄弟の末っ子。どーせ王位継承順第なんたら位だし、本国居場所ないし、エルサに近づいたけどムリゲーだったので、軽そうなアナならいけるだろ。いやーマジチョロかったわー。アナもエルサも事故死を装ってアレンデール王国を乗っ取るわー的な告白をします。

アナ雪の世界みると、王政だけど、銃火器、大型船はあるって辺りで、大航海時代〜市民革命前夜の15〜17世紀くらい。原作というか原案というかモチーフ程度にしかなってない「雪の女王」の作者アンデルセンデンマークなので、デンマーク含めた北欧辺りをゆるーくイメージすればいいんでしょうかね。

ヨーロッパ内で仲良く戦争し続けてた時代から、大型船の機動力を手に入れて外洋に出て新天地の原住民から貿易というか詐取っぽい感じで潤うのですが、海の覇権を得るために、海軍艦隊の軍拡競争が激化し、予算は青天井で軍備が間に合わないので海賊を傭兵化で間に合わせる国家公認海賊とかいて、私掠船免状とかあって、そして平和になった世界だけど海賊は伝統芸能化して生き残ってるのがモーレツ(ミニスカ)宇宙海賊の世界観ですね。

ハンス王子。このままいけば大航海時代以前ならどうでもいい内紛の傭兵の大将におさまるか、以後なら新大陸の占領にせっせと僻地に飛ばされていた。そんな軍人生活を送っていたように妄想します。いわゆる市民革命以後の職業軍人とは違うけど。

そんな軍人生活よりは、アレンデール王国に婿養子(女王の妹なので分家の婿養子だけど)に入るというのは彼の身の丈にあった良い選択であるように見えるのです。しかし彼は真実の愛のキスはできないと断ります。この辺、物語の悪役というのは自らの悪に対してはとても誠実です。

なぜハンス王子はキスを断ったのでしょう。

・アナを愛していなかった
確かにそう言ってますがもう少し踏み込みましょうか。彼に世界征服規模の分不相応な野望があったにせよ、アレンデールに婿養子に入るのは野望の足がかりとしては良い手に見えます。そう性急に乗っ取らなくても、アナやエルサが野望のパートナー足りえるか見極めてからでもよかったような気がします。そう考えるとアナもハンスもせっかちすぎます。おまえらほんと似たもの同士だな。もういいから結婚しちゃえよ。

・13人兄弟の末っ子で愛を知らずに育ったので、真実の愛が分からない
筋は通ってますし、個人的に本命なのですが、割と救いようがないです。かと言ってここでぶちゅっと真実の愛でないキスをしてしまって何も起こらないというのも、いくらソフトに描いてもあまり親御さんがお子様に見せたくない、薄い本ルートもしくは昼ドラルートに分岐してしまいそうなので、打てない手です。

・アレンデール王国はインカ帝国的な未開のインティ・ライミなのでアナを人として見てない
うわー。レイシストだ。でも未開の酋長の娘を許嫁からひっぺがして「真実の愛」で籠絡するアバターみたいな話はハリウッドにいっぱいあって、どちらかという未開側に肩入れしがちな日本人の視点で見ると、おらたちのお姫様を毛唐が掻っ攫っていきやがった的なモヤモヤが毎度あります。

・借金があった
急いで返さなきゃいけないから信頼を築いている暇がなくて国を乗っ取るしかない。借金なりなんなり時限のある事情があるというのは十分考えられます。その場合、たとえ、この場を乗り切っても自転車操業でどのみち破滅が待っていますので、ハンスとアナの幸せな結婚生活という分岐もばっさり断ち切れます。うん、これだね。これにしとこう。すごいね、世の中だいたい金で解決できるね。

で、ここらへんまで妄想ふくらませてからWikipedia見たら、

監督のジェニファー・リーは、ハンス王子の本質について原作の「悪魔の作った鏡」であるとインタビュー[7]で語っている。鏡のように周囲の人物の心象を写し出しているのだと。

アナと雪の女王 - Wikipedia

だそうで。やだなあ。ここまで自己紹介乙ですか。恥ずかしいなあ。世の中だいたい金で解決できるね。ハイ!アイ・アム拝金主義者デスヨ。




あと、先ほどの大野先生のはてなブックマークに、なるほどと思ったコメントがありまして。

b:id:mahal
つか、王の急死後は摂政として国政を支え女王出奔後も他国の王子を利用して混乱を収めつつ、最後の後処理をきっちりこなすクッソ有能な大臣が男な段階で、そうしたフェミニズムが思いっ切り相対化されてるようにも。

はてなブックマーク - 『アナと雪の女王』にかかったジェンダー観の砂糖衣 - Ohnoblog 2

いましたね。ちょくちょく見切れてる超有能ご家老。

普通にイメージ広げると、先代国王夫妻に大恩を感じていて、アレンデール王国とエルサ・アナの姉妹の行く末を案じている超有能スーパー爺の感じ。

戴冠式はしきたりだなんだ言っても企画立案実行はこの爺が全部取り仕切ってそう。

爺の身になって考えると、戴冠式と同時に婿も取りたかったんだろうけど、あまりの引きこもりぶりにリハビリ必要だろうと、まずは戴冠式で国交を回復し、その中でいい相手を見繕おうくらいに考えていたのかもしれません。

となると、ハンスとアナがくっついたのは、爺からすると渡りに船。とりあえず仲良くさせといて、裏で身辺調査。で、調べたら大借金があってケチな詐欺繰り返していたので、とりあえずアナの言うなりに国王代行と祭り上げながらも裏で捕縛準備。王子の悪が露見してからの対応の早さは、おそらく準備していたのでしょう。さすが、超有能スーパー爺。

で、一点気になるのは、この超有能スーパー爺。エルサの能力についてどこまで感知していたのかなあという点。

エルサはLet it goで、誰にも知られちゃいけないけど知られてしまった!! Well now they know!! (手袋を投げながら)と、歌っていますが、爺は知ってそうです。国王夫妻から直々に知らされていたのか、有能故にどこかで気がついていて、忠義故に見て見ぬふりをしつつ、内々の世話係だけには不便のないよう指示してそうです。

エルサがこの超有能スーパー爺に自分の能力を打ち明けていたら、物語はもっと平和に、でも小規模に、あまりおもしろくない形に着地していたかもしれません。

能力制御とストレス開放と治安維持を兼ねて、夜な夜な領内の悪を氷の魔法で成敗。事後処理は全部爺。あ、それはちょっと面白そうなファンタジー・アクションかもしれない。でも、なんかそれ、どっかで聞いたことがあるような。

両親を失った正義感あふれる金持ちの子供。夜な夜なスーツを着て悪を成敗。財産管理と事後処理を一手に引き受ける超敏腕執事アルフレッド。



ああ、思い出した。それバットマンだ。

(2014年6月17日追記)
友人にこのエントリを読んで頂いたら、鋼の錬金術師のリン・ヤオ皇子がハンス王子と境遇近いねとコメントいただきました。

確かに彼のような、第十二皇子でありながら国内で少数部族なヤオ族の期待を一身に背負って皇帝を目指す強欲家の王子様であれば、アナもエルサもまとめて幸せにしてくれそう。

とても面白そうですが、全く違うお話になりそうです