うたろぐ

twitterよりもうちょっと書きたいこと用

風立ちぬのヒコーキとか声優さんとか

風立ちぬ見て来ました。
「主役の声がエヴァ庵野監督」
とネットニュースの見出しが目に入っても、一瞬何かの誤植なのかと思いましたが
「新作ジブリ映画の主役の声は、エヴァなどの監督で有名な庵野秀明氏が起用された」
という事実を把握するに至って、ああそれも面白いかもしれないなと普通に受け入れてしまいました
なんかもうね。僕、庵野信者でいいや

以下映画本編内容につき若干の改行























前回の崖の上のポニョはアニメーションとしてはぬるぬる動いて素晴らしいんだけど、本編のストーリーがなんかよくわかんない。いや、大筋はだいだい分かるんだけど世界設定の説明が全くなく。でも、キャラクターや出来事が寓話的な思わせぶりな配置をしてるので深読みできそうなんだけど、ちょっとあまりにノーヒントすぎるだろうとモヤモヤしてたけど、やー大海嘯すげーからまーいっかーと思考停止していました。

なので、今回もアニメーションとしてすごいヒコーキぴゅーぴゅーギュインギュインしてればいいやーくらいの心のハードルで見に行ったので大変楽しめました。

冒頭から夢の中のヒコーキ。少年二郎が学生服でヒコーキに乗る、あからさまな夢のシーン。でもエンジンスターターのヒモっぽいのを2回引っ張って、なんかのスイッチを入れてエンジン始動。火が入って振動していく描写がしっかり描かれる。

ポニョの人が乗れる巨大ポンポン船とかもそうなんですが、こうした宮崎アニメのメカ描写のリアリティって、もしかするともうオンリーワンかもしれないなあってふと思いました。

今だとメカって3Dモデリングが主流になってるので、エンジン始動って光や煙のエフェクトとか、もっと凝った描写なら内燃機関のピストンを透過で3Dで描くかみたいな方向になるんじゃないかなあ。エンジンが震えるさまを3D使わず手書きアニメで描くのは、もう伝統芸能の部類かもしれない。

ポニョの大海嘯にしろ、3Dモデルで沿岸部作りこんでどっぱーんとぶち壊すことはせず、あくまで手描きアニメ。でもすごい迫力。宮さんはiPadを指で擦るのが自慰行為みたいで気持ち悪いとまで仰ってますが、現代テクノロジに対して並々ならぬ敵愾心は、作品からもこうして漂ってきている気がします。こういう技術のある御大はまだ他にもいるのかもしれないけど、現役で制作に潤沢な資金が使える立場にいるのはもしかするともう宮さんだけなのかもしれない。

思い返せば、カリオストロの城もルパンと次元がじゃんけんして負けた次元がパンク修理するところから始まります。その後劇中パンクなんか無縁の荒唐無稽カーアクションをするのに、いや、するからこそ、冒頭でパンク修理という自動車の手触り感を描いているのかもしれません。

あまり僕は軍事方面詳しくないので、航空機のフォルムを見て、これがこれというのが分からないのですが、本編中ほとんどモデルとなった実機はあるでしょうが、基本宮さんのかんがえたすごいヒコーキだったんじゃないかなと思います。

史実を元にと言いつつ、メカニックのリアリティがあればこまかいことはいいんだよって辺りが、アニメーションという言葉の元々の命を吹き込むという意味で、これはすごいアニメーションなんだなあという当たり前というかトートロジーな感慨を持ちました。

あと、ポニョで気になった丸投げ世界設定についても、今回風立ちぬは、史実が元だから、あとは適当にやっといてと、全然史実じゃないのに丸投げ。同じ丸投げでも老獪度が増しています。

まあでも世界設定説明なんて無ければ無いに越したことはないんですよね。退屈だし。

二郎の幼少から軽井沢で奈緒子と再会するまでのテンポよい省略は、むしろ昔の洋画のような気持ちよさ。あとは各自で色々補完すればいいんですよね。



アニメーションとしては、そんなところで、あとはやっぱり最初のフックになってた声優さんの話。

庵野さんの喋りはナウシカDVDのコメンタリとかで、「宮さんって『メーヴェにこんな大股広げて乗るなんて、この娘はなんてはしたないんだ!』とか言いながらすっごい嬉しそうに描いてるんですよ。あー、この爆発も俺書きたかったんだよね」的なことを甲高い早口のヲタ喋りでしてたのを聞いていたので、かなり気持ち悪い仕上がりになっている覚悟もしていましたが、思ったより落ち着いた芝居。というか単に棒。

でも、この棒が庵野さんだと思うと、スケジュールに追われ、資金繰りして絶対に興行的に失敗できないプレッシャーの中でエヴァQみたいな、面白いけど、いいのかこれ?という、作家性の高い作品を作る庵野秀明と、技術者堀越二郎が繋がってしまい、えらく身近な存在に見えてしまう。

というか庵野さんって、そういう視聴者にとって身近に感じる作風なのかもしれない。「これだからアンノは」的な言説をみんながしてしまう感じの。そのキャラクターがヘタな芸能人を連れてくるより強力かも。風立ちぬで観客に想定されてるだろう僕らオタ周辺趣味の人にとっては、若手イケメンアイドルよりもお笑い芸人よりも、そしてこれは一アニオタとしては複雑であるんだけど、ベテラン声優さんより、庵野さんのがキャラが立ってる。

ちょっと堀越二郎の声をベテラン声優で脳内再生してみる。エンジニアって設定から、パトレイバーのシバシゲオこと千葉繁さん。

オタっぽい甲高い早口を芸の域まで高めてらっしゃいますが、作中堀越の飄々とした感じとはちょっと遠いなあ。上司の黒川とかだとハマりそう。

もうちょっと飄々としたエンジニアってイメージから、宇宙兄弟のムッタ。ワンピのサンジやパイレーツオブカリビアンのジャックスパロウとかの平田広明さん。

飄々とした「やれやれ」感に個人的に定評がありますが、どうも吸いも甘いも噛み分けた世慣れたオヤジ風が強くて、堀越の木訥とした感じとはちょっと違うかなあ。

もう、じゃあ個人的な声優の神様、山ちゃんこと山寺宏一さん。僕の妄想の中では外郎売りを100種類以上のパターンで演じられるイメージですが、エヴァの加持さんベースにもう少しマジメな感じで脳内再生。

あー、なんか僕の中ではしっくりくる。木訥として起伏の少ない表現の中で、喜怒哀楽を細やかに表現する山ちゃんが演じる堀越の声が聞こえる。というかこの方なんでもやれるし、というか前述したクラスのベテランは基本なんでもできるんでしょうけど。

でもそれでいいのかっていうと、見てみたいけど、なんか違う。アニメーション自体が既に人物に豊かな感情表現をしているジブリ作品にそういう芝居乗せると過剰ってわけじゃないけど、そこに国宝級職人を連れてくるより、観客にとって既にキャラの立ってる人を連れてきたほうが、興行的なことまで含めたコスト配分としてはバランスいいんじゃないかなあ。



まあそんなことがモヤモヤしましたが、全体としては宮さんのすごいヒコーキがたくさん見れたので面白かったです。